新宿から乗ったスーパービュー踊り子号を河津駅で降りると、東京とはちょっと違った暖かい風と明るい光に迎えられたような気がした。やはり伊豆には半歩早く春が訪れているようだ。
今回は実家の車が使えないので、交通手段は電車だ。日帰りの予定でやってきた。
川沿いの桜並木まで来た途端、思わず一人で「うわぁー」という歓声をあげてしまった。カワヅザクラは濃くて上品なピンク色が特徴的だが、そのピンク色の帯が何百メートルも続いていたのだ。
ここに咲くカワヅザクラは野生で発見された自然交配種だ。片方の親は、沖縄など南国に咲くカンヒザクラ。もう片親はオオシマザクラではないかと言われている。
カンヒザクラは、紅色が濃くややうつ向き気味に咲くこともあって、沖縄の方には申し訳ないが、本州の桜を見慣れている私は少し違った桜という印象を持っている。
しかし、カワヅザクラは、カンヒザクラの長く咲くといういい特徴を受け継いるにも関わらず、下向きに咲くという特徴はあまり持っておらず、多くの花はきりっと私たちのほうを向いて開く。
一方、オオシマザクラの白と、カンヒザクラの濃い紅色の丁度中間ぐらいの、とても上品なピンク色である。
それに、オオシマザクラのような大樹に成長し、花もカンヒザクラに似ずやや大き目である。
とても優良な混血児が河津町で見つかったと言えそうだ。
カワヅザクラの原木を訪ねた後に、4,5キロ離れた山あいの湯ヶ野温泉にバスで行くつもりだった。湯ヶ野もカワヅザクラの名所になっているという。原木までは20分ほど歩いて行ったが、途中の最寄りのバス停で、次の湯ヶ野温泉行きのバスは16:42であることを確認してある。
16:30頃に原木を撮っていたカメラをしまい込み、逆戻りするのも芸がないと考え、湯ヶ野方向にあるはずの次のバス停を目指して歩くことにした。
ところが、10分歩いても次のバス停が見つからない。道のカーブを曲がりきるたびに、今度こそバス停があるだろうと期待するのだが、何度も裏切られる。そのうち、バスが来るはずの時間はとっくに過ぎ、16:50になってしまった。路線バスはなぜか来ず、私を追い越すことはなかった。観光バスだけが、細い路肩を歩く私をおびやかして何台も走り去る。
その上、具合の悪いことに太陽が西側の山の向こうに沈んでしまった。今日の東京の日没は17:30頃だと思うが、ここは思っていたよりも山が迫っているので、日の光が届かなくなるのが早い。これでは今から湯ヶ野に行ってもいい写真は撮れないだろう。
しかたなく湯ヶ野に行くのはあきらめ、駅に向かって歩いて戻ることにした。40分はかかっただろうか。
後で分かったことだが、路線バスは原木の最寄りのバス停から脇道に折れてしまうのだそうだ。私が歩いていた道をまっすぐ進んでも湯ヶ野温泉に行けるのだが、路線バスは別の集落を経由して湯ヶ野に向かうらしい。ちゃんと調べておけばよかった。
残念ながら、これで湯ヶ野の桜との出会いはしばらくお預けということになってしまった。次の機会を楽しみに待つことにしよう。